(10月5日号 No1208)の
司法書士への質問状のコーナーに、
私の書いた文章が掲載されました。
発行元のご了解を頂きましたので、
下記に転載致します。
Q
先日、母が亡くなりました。借金があるようなのですが、現時点では金額がはっきりしません。知人から相続放棄や限定承認という制度があると聞きました。どのような手続でしょうか?
A
相続放棄をすることによって、財産も債務も承継しない事になります。
限定承認をすることによって、相続によって取得した財産の限度で、債務の返済の責任を負うことになります。
T相続と相続人の選択
相続とは、亡くなった人(被相続人)が持っていた財産上の権利義務を、配偶者や子などが承継することです。不動産、動産、預貯金などのようなプラスの財産だけではなく、借金のような債務も承継します。
相続人は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続についての対応を決めなければいけません。
相続人は、@単純承認、A相続放棄、B限定承認の3つの中から選択することになります。3ヶ月以内にいずれにも決めなかった場合は、単純承認したものとみなされます。
U単純承認
相続財産、債務等一切の権利義務を承継することになります。
V相続放棄
相続の効果が、自分に及ぶことを拒絶することです。相続放棄の申述が受理されると、その者は初めから相続人とならなかったことになります。昨年、全国の家庭裁判所で新たに受け付けられた相続放棄の申述は、156419件です。
相続放棄の申述は、相続開始地(被相続人の亡くなった際の住所地)の家庭裁判所に申述書を提出することによって行います。この提出は、郵送によることも可能です。
家庭裁判所は、申述書、添付書類を確認した上で、申述人に対して書面による照会を行います。書面による調査では、不十分と考えられる場合は、面接等が行われます。
相続人が数人ある場合でも、他の相続人の意向と関係なく、相続放棄の申述をすることができます。同じ順位の相続人が、すべて相続放棄をすると、次の順位の人が相続人になります。
W限定承認
財産も債務も承継するが、引き継いだ財産の価格を限度として、弁済の責任を負う制度です。
手続が複雑で、費用と時間がかかるので、あまり利用されていません。昨年、全国の家庭裁判所で新たに受け付けられた限定承認の申述は、978件です。
限定承認の申述は、相続人が数人あるときは、全員が共同して行わなければなりません。但し、相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったことになりますので、その他の相続人が全員一致で限定承認の申述をすることは可能です。
限定承認の申述は、財産目録等を添付して行われます。申述が受理されると、清算手続に入ります。
官報による公告をして、被相続人に対して債権を有している人に対して請求の申出をするように促します。判明している債権者に対しては、
催告をします。
次いで、相続財産を換価し、配当弁済を行います。債権者の全てに弁済して、更に残った財産がある場合は、相続人が取得します。
限定承認を選択するにあたっては、譲渡所得税の課税が生じる可能性について注意する必要があります。相続財産の中に不動産や有価証券等がある場合は、相続の開始時に時価により資産の譲渡があったものとみなされ、価格上昇益があれば、課税の対象となることがありますなります。そこの場合の譲渡所得は、被相続人の所得として準確定申告(被相続人は亡くなっているため、確定申告をすることができません。相続人が代わりに申告をします。これを準確定申告と言います。)の対象となり、その税額は相続債務として、限定承認の手続の中で相続財産から支払うことになります。
Xその他
相続人が相続財産の全部又は一部を処分すると、単純承認したものとみなされます。相続放棄や限定承認を検討中の場合は、相続財産の処分はしないようにして下さい。
また前述のように、熟慮期間を徒過した場合も、単純承認したものとみなされます。相続財産の調査に時間がかかるなど、期間内に、対応を決められない状況の場合は、家庭裁判所に期間の伸長の申立をすることができます。